誰も住んでいない物置

大阪に行った。


大阪にいる間、友人宅に滞在させてもらっていたのだが、1日だけ向こうの仕事の都合で泊めるのが難しいとのことだったので、急遽宿泊場所を探した。


その宿泊場所は、大阪に住んでいたころにも一度も行ったことがない地区にあった。乗り換えアプリを見ながら電車に乗り、最寄りの駅に到着した。コンビニに寄ろうと思ったが、既に伝えたチェックインの時間を過ぎていたため、とりあえず宿泊場所に直接向かうことにした。


地図を見ながら住宅地の細い道をどんどん歩いて行く。周りを見ながら進むと、民家に挟まれた目的の宿泊場所に到着した。


外の扉を開くと、玄関まで3mほどの距離があり、傍に2mほどの松や、名前の分からない様々な種類の植物がたくさん植えられていた。玄関の前には何本かの傘が干してあった。「御用の方はこちら」というインターホンを押し、玄関に入ると、宿泊場所を営むお二人(母と娘で経営しているらしい)が、同時に出迎えてくれた。「ほら、ほら、お部屋案内して」と、お母さんが言い、娘さんが「ついてきてくださいね」と案内してくれた。


泊まる部屋に向かい、部屋の装備について説明してもらった。今日は男の人しか泊まっていないらしく、おそらくその気遣いで、鍵の確認を念入りに行ってくれた。部屋内側からの鍵のかけ方を教わった後に、「ちょっと外に出てみて」と促されたので外に出ると、ガチャっと鍵がかかる音が聞こえた。「ノブ回してみてください〜!」と言われたので、ガチャガチャして、「閉まってます!」と返事をした。「そう!絶対開かないから安心してね〜」と言われたので、ありがたいと思い「いやあ閉まってますねえ」と追返事をした。


私の部屋にはたまたまトイレがついていたので(他の部屋は基本共同らしい)、部屋のトイレも案内してくれた。その時に言われた「この扉がトイレで、これが電気のスイッチね。あとこの横の扉、これ昔のお婆ちゃんの物置で、誰かが住んでるとかじゃないから安心してね!」という説明が、怖くておもしろかった。


次に共同のお風呂場を案内してもらい、そこでも二重の鍵かけ確認をしてくれた。


料金先払い制なので、案内してもらった流れで受付にいるお母さんにお金を支払いに行った。「大丈夫〜?わからないことなかった?」と声をかけてくれたので、「大丈夫です。ありがとうございます。」と言うと「もうね〜何かあったらあたしはあそこの部屋にいるから、ドンドン扉叩いて呼んでね〜うん」と受付の右斜め前の部屋を指差した。「もうお風呂入る?」と聞かれたので、一回コンビニに寄ってから入ろうと思います!と答えたら、お水でも買いなさいとお釣りと一緒に100円をくれた。


コンビニに行こうと宿泊場所を出ると、玄関前に干してあった傘の内側に猫が丸まって寝ていた。猫のための傘だったらしい。人馴れしていて動く様子はないが、警戒しているのかジーッとあたしのことを見つめていた


コンビニから戻ってくると、猫が2匹に増えていた。


コンビニから戻り、お風呂が空いていたのでお風呂に入り、部屋に戻ると、どこにもドライヤーがないことに気づいた。あぁここドライヤー無かったか、と思いながらも一応聞いてみようと思い、先程指さされた部屋に向かった。部屋をトントントンと3回ノックするが、反応はない。少し時間をあけてまたノックしてみたが、またしても反応はない。続け様にもう一度ノックしてみると、部屋の奥からいびきが聞こえてきたので、ドライヤーは諦めて部屋に戻ることにした。


1時間ほど部屋でゆっくりしていると、部屋の外から扉の開け閉めする音と足音が聞こえた。もしかしてと思い部屋を出ると、玄関先でお母さんが5、6匹の猫たちに餌をあげていた。話しかけてドライヤーを受け取り、部屋にドライヤーを置いてから、もう一回外に出て猫が餌を食べるのをじっと見た。


翌朝、宿泊所を出るときお母さんの方が玄関で猫に餌をあげていた。「あら〜おはよう。お帰りですか。忘れ物はない?」と忘れ物確認をされたので「大丈夫です」と答えたが、お母さんは構わず続けて「携帯と財布は大丈夫でしょう?あ!あれね、携帯の充電器とかはよく忘れるわね。あとは眼鏡!あなたは眼鏡はかけてないね?私くらいの歳になるとね、歯を忘れたりするんだけどね、ワハハハ」とジョークを言っていた。

人の持ちジョークを聞くのが好きなので、帰り際にいいもの聞いたなとホクホクした気持ちになって、猫たちに別れを告げた。

2時間半の料理

待ち時間の長い料理が好きだ。

正確に言うと、料理の合間の若干何かにゆるく縛られてる時間が好きだ。


今日は朝から胃腸の調子が非常に良くなかったので、ふらふら家の中を歩いたり、電源のついていないコタツに潜り込んだりしていた。朝食兼昼食としてグリーンダカラとゼリーを食べ、若干回復したところでぼちぼち仕事をした。


大分体調も回復し、ご飯ものを食べたい気持ちが出てきたので、早めの夜ご飯としてお粥を作ろうと思いついた。

お粥のような柔らかくてどろっとしている優しい食事がとても好きだ。そしてなにより、待ち時間が長い。出来上がったものも、出来上がる工程も好きな食べ物はなかなかないんじゃない〜と思いながら米をとぐ。


米をといだ後は浸水する。ここで早速1時間30分の待ち時間(浸水時間)が訪れる。

料理の定番と言えそうだが、キッチンに椅子を持っていき、読んでる途中の本を開く。窓を開けているのでやわらかい風が顔に当たって気持ちいい。一度目を閉じ深く息を吸う。


風が心地いいキッチンにて読んでる本は池澤夏樹の小説だ。3ヶ月ほど前に、小説「スティルライフ」と、エッセイ「異国の客」読んで以来、もっと!もっと読みたい!の気持ちがむくむく育ってきており、少しずつ同著者の作品を読み込んでいる。村上春樹は、「今回の作品はとても残念でした、次回は頑張ってください」という感想をもらうと、悔しいがとても嬉しい。読者との信頼関係が築けているということだから。と、いうようなことを言っていたが(うる覚え)、読者側としても信頼する作者と偶然出会えるというのはとても嬉しいことだなと思う。


ここで、浸水してる米からパチパチと結構な大きさの音が聞こえてきた。氷河の氷を水に入れた音を想起させるパチパチ音だ。調べてみると、米が水を吸って膨張してヒビが入る音らしい。氷河の氷の音の出方とはまるきり違った。同記事内に「乾燥しすぎる保存環境にあるので保存場所を見直した方がいいかもしれません」「古くなった米の可能性があります」という文言があって少し怖くなったが、あまり切羽詰まった言い方ではなかったと解釈し、気にしないことにした。


1時間半経ったので、次の工程に進む。

少量の油を熱した鍋に入れて、米が透明になるまで炒める。ケトルで沸かした熱湯をたっぷり入れ、混ぜ続ける。ふつふつと煮立ってきたら、弱火にして蓋をせずに放置する。混ぜるのはたまにでいい。ここでまた25分の待ち時間(煮込み時間)が訪れる。

椅子に座り直し、コポコポと動く鍋の中を見つめる。早めに作り始めたおかげで、窓からの日差しは暖かく風もまだやわらかい。本を手に取り、先程の続きから読み始める。本に氷河の話しが出てきて、そういえばさっき氷河の例えを出したのは、この本の影響だなと思う。1、2ページ読み、集中ができなくなってることに気づいたので、本を置いて、ぼーっとしつつ鍋の様子をじっと見ることにした。

5分くらい経つともう上澄みの水の質がトロッとした感じに変わっていたので、軽く混ぜてみる。25分と言いながら、時間を測っているわけではないので、外を眺めて、気分転換に混ぜ、ちょっと本を読んでみて、味見で硬さを確かめ、ぼーっとする、みたいなことを繰り返す。


途中で鶏がらスープの素と少しの熱湯を加えて、また煮込む。それぞれのお米の表面が少し剥がれてきて水とお米の境界が曖昧になってきたところで火を止めて、塩で味を整える。


ゆっくり過ごしていたら美味しいお粥が出来上がっていた、幸せなことだ。まだ明るいキッチンでやさしい夕食を食べるのは、幸せなことだ!

明日の朝は胃腸の調子が良いようにと切に願いながら、もくもくとお粥を食べた。


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2つの栓抜き 三頭犬と船着場 未知のアブラボウズ

旭市に行った。


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宿泊場所から見える海。




雨が降りそうな天気だったが夜までは降らなかった。見渡す限りの海に気分が上がり、荷物を置いてすぐに散歩に行く。


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たぶん地元の猫。ラフに居着いてていいですね。




少し歩くと、住居兼お店のような商店があった。ビールの栓抜きが欲しかったので寄ってみることにした。お店は少し薄暗く、すりガラスの扉から差し込んでくる光の明るさで保たれていた。陳列棚は、同じ商品が後ろまでぎっちり列になっているのではなく、ある分だけ、2〜3個手前に置いてある形だった。普段見慣れているコンビニとは違う店内の雰囲気に静かにウキウキしながらお店を回った。

栓抜きが中々見つからなかったので、お店の人に、栓抜きってありますか?と聞いたところ、栓抜きですか〜、、、ちょっっっと待ってくださいね〜と言いながら、私が先ほど見ていた棚に行き、20cmくらい奥まで覗いて探してくれた。あ!ありました!ありました!最後の一個です!と、赤い栓抜きを片手にパァッとした笑顔でこちらを見てくれた。私も嬉しくなり、わあ!最後の一個ですね!すごい!と言った。

お会計の際、そういえばさっき見つけたのでよかったら持って行ってください!と、何かのお酒のおまけであろう栓抜きをくれた。栓抜きあるかな?と入ったお店で2つの栓抜きを手に入れた。これは幸先のいい散歩のスタートだ。


10分ほど歩くと船着場があった。

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船着場を見ていると、ハリーポッターと賢者の石のあのシーンを思い出した。門番である巨大な三頭犬に、ハリーたちが音楽を聞かせて眠らせ(ケルベロスは音楽を聴くと眠る)、その隙に三頭犬の間をすり抜けて、危機を脱するシーンだ。そこでは三頭犬が眠っている安心感よりも、起き出したらどうなるか分からない大きな力への畏怖の方が強い。

船着場の大きな船もエンジンを切られてじっとしている。しかし、活動時にみせる圧倒的な力を確かに纏っている。その緊張感にゾクゾクしながらも、船は三頭犬のように起きて襲ってきたりはしないので、はしゃぎながらパシャパシャ写真を撮って楽しんだ。


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翌日朝の船着場。




目的地だったホテル近くの海に行き、満足するまでぼうっとしたり、右端から左端(私が設定した端)まで歩いたりした。少し暗くなってきたので、一旦ホテルに戻って財布を取ってから夜ご飯を食べに行こうとなった。夜ご飯の目星はついており、お腹も空いていたのでホテルに戻って、またすぐ外に出た。

歩いて5分くらいのところにお店はあった店内の壁紙は優しい黄色で、頭上にはスタンドグラスのペンダントライト、木の楕円形のテーブルに薄いブルーの椅子と、とてもかわいらしい雰囲気だ。そのかわいらしい黄色の壁に、大物の鯛の魚拓や、手書きの海鮮メニューが貼ってある。絶妙なバランス感。たまらない。

夕食は、しらうおの小鉢や地魚ユッケ、アブラボウズの煮付けなどを食べた。アブラボウズとは深海魚で、地域にもよるが市場にはあまり出回らないそう。私が食べたアブラボウズはマスターが一週間お店を休んで自分で捕ってきたものらしい(隣の席でマスターが常連の人たちと話してるのを盗み聞きした)。

煮付けは、名前の通り脂がたっぷりのったアブラボウズと濃く煮詰めた甘めの醤油ダレが絡み合ってとても美味しかった。後で調べたのだが、油分が多い魚は煮つけるとふわふわになるらしい。次の日のお昼、同じお店に行ってアブラボウズの炙り刺しを食べた。生で食べるそれは煮付けの食感と違って、しっかりと弾力があった。脂感は健在で噛めば噛むほど旨味が出てきて美味しかった。調理方法でこんなに変わるなんて、魚と料理は不思議だ。

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ぴちぴちのシラウオグラビア




帰りは船着場を経由して、遠回りでホテルに帰った。夜の船着場は緑色に見えるライトに照らされて、昼間より活気付いて見えた。さらに向こうには岬があり、昼間は小さくてほとんど見えなかった灯台の光りがはっきりと見えた。

岬にある灯台に行ってみたいなと思いながら、下から眺めているのが楽しく、下をゆっくり歩き回り満足して帰った。